おしゃべり蔵元参謀の駄弁

陸奥国 津軽の西の地より、おしゃべり小太り参謀が叫ぶ。

【蔵元参謀の心得 ~旗旒用意ッ! Z、揚げッ!~】


「まことに小さな蔵が開化期を迎えようとしている」


これは作家 司馬遼太郎の名作「坂の上の雲」の冒頭の一文を引用し、「国」を「蔵」に変えたものです。


この作品は明治という時代を迎えた日本という国が主人公の物語です。日露戦争という大きな戦争を迎えるにあたって作戦・戦術・指揮を執る様々なリーダーたちの姿が描かれています。


経営者のバイブルとも言われるこの作品に触れたのは父の薦めで観たNHKスペシャルドラマでした。父は我が子(私の弟)に遼太郎と名付けるほど司馬遼太郎の大ファンなのです。


当時は戦争の映像の迫力に魅了されました。原作に触れたのは大学卒業後に入社した会社の新入社員の課題図書でした。


心に響く言葉と各分野のリーダーたちが数多く出てきます。ご興味のある方は是非一度お読みください。


私の好きな登場人物の一人が秋山真之という海軍軍人です。彼は日露戦争において、世界最強と言われたバルチック艦隊を破るに至る作戦を立てた人物、いわゆる「参謀」でした。


私の名刺の肩書きである「参謀」も、実は秋山真之への憧れから来ているものです。


彼は論理的そのもので、過去の歴史上の海戦戦術書を読み漁り、また各国の最新の技術・戦術の研究にも熱心でした。まさに「温故知新」です。


先入観を嫌い、現状を疑い、結果として自国よりはるかに強大なロシア相手に、奇跡に近い勝利を収めたのです。


作品に出てくる彼の言葉の中で特に印象に残っているものがあります。


「海軍とはこう、艦隊とはこう、作戦とはこう、という固定概念がついている。恐ろしいのは固定概念そのものではなく、固定概念がついていることも知らず平気で司令室や艦長室のやわらかいイスに座り込んでいることだ」


明治期の日本は侍の時代から欧米列強に対抗するため、急速に近代化を目指して行きました。財政が乏しいにも関わらず、ほとんど不可能とも言えるスピードで。そこには大きな危機感があったからでしょう。


小さな地方の蔵元にも全く同じことが言えると思います。


代々継承してきた従来の常識は、昔ながらのやり方は、果たして現在の常識なのか。正解なのか。自社が生き残る道はどこにあるのか。他社に対抗するために振るう武器は満足なものなのか。設備は満足か。設備が無いならばどうするのか。先を見据えた設備投資は果たして無駄だと言えるのか。その根拠は何なのか。


常識を疑うこと、思考することから全てが始まります。そこから生まれるのが戦術・戦略であると思います。


タイトルにある「Z」とは「Z旗」という旗を指しています。それぞれの文字に意味が込められた信号旗を掲げることで意思疎通をしました。


このZ旗秋山真之が作中で掲げるように命ずるものです。


この旗に込められた意味は「皇国の興廃この一戦に在り。各員一層奮励努力せよ」というもので、「この一戦(バルチック艦隊との海戦の勝敗)に日本の存亡がかかっている」という意味が込められていました。


出張に出る時、行きの電車に乗っていると毎回このシーンが頭をよぎります。


弊社唯一の営業として、蔵元の存亡はこの手にかかっている、という意識を、若輩者ながら抱きつつ、今日も東京へ向かっています。


少しでも良い方向に向かうことができるように、また日本酒業界がさらに明るく発展できるように、その一助となれるよう、奮励努力致します。